亜空の深淵行ってきた

 

モーレツ宇宙海賊 ABYSS OF HYPERSPACE 亜空の深淵』観た。

 良かった、悪かったとハッキリ言い難い出来だったので感想をば。

以下、敢えて問題に思えた点だけ記す。

 ※ネタバレ注意

 

気になったところ

 

まず、明らかに尺*1が足りていない。これが一番気になったところ。テレビシリーズの映画化ということもあって、やらなければいけないこと、出さなければいけないキャラが多い(特に『モーレツ宇宙海賊』は群像劇なのでキャラ数半端ない)ことは承知しているが、それにしても詰め込み過ぎなんじゃ…とにかく尺がないので、次から次へ出来事が起こり、それを登場キャラ達は瞬時に理解&把握、次のステップへという流れが劇中繰り返されていた。モーパイらしい*2といえばらしいのだが、テレビシリーズが比較的余裕のある作りだった分、それとのギャップでより早足に感じてしまった気がする。伏線も、後で「そういうことだったのか!」と気付くというより、スクリーンに映った瞬間「あぁ、そうなるのか」と先の展開を気づかせるものになってしまっていた。ある意味、極限まで無駄を省いた結果だ。

 

上記に付随することだが、とにかく全ての事柄が早足で進むのでキャラクター描写が全体的にあまり上手くいっておらず、誰に感情移入してよいのか分かり難いのも問題だったように思う。外部者の(そして鑑賞者の)視点として新キャラ=無限彼方を出すのは要請上当然のことであるように思うが、観終わってみても、結局彼はなんだったのかよくわからない。また、彼のメンタリティがどのように変化したのかが追い難いので、観客視点としての役割も十全には果たせていない。無限彼方は父の遺産を託されたことで謎の敵に狙われ、逃避行の果てで茉莉花に出会うのだが、彼の海賊達に対する疑いが何時どこでどのように晴れ、信用するに至ったのかがイマイチよくわからない*3のだ。一晩寝て起きたら気が変わったようにしか見えなかった。

 

監督が以前イベントで話していたグリューエルとグリュンヒルデ姉妹の関係を深堀する*4ような描写も映画版には盛り込まれていたのだが、やはりそれも尺が足りず、不十分な描写になってしまっていたように思う。グリュンヒルデが無限彼方と自身の類似点*5(と彼のそれに対する態度)に反感を持っている状態から、彼に協力しようとするまでの心情変化があまりにも短時間で起こるので、昨今流行りのチョロインにしか見えない。

 

映画化したことで、キャラクター造形や背景のデティールアップが高いレベルで実現されていたのは良い点なのだが、結局それも尺に余裕がない所為でじっくり見られなかったのが残念だ。たとえば弁天丸のブリッジは全面的にブラッシュアップされていたが、それをじっくりナメて隅々まで見せるようなショットが無いのである。他にも、新奥浜の街、ランプ館等もう少し背景をじっくり観てみたい場面は多くあったのだが…こういった諸々はディスクや設定資料集のようなもので確認するしかないのだろうか?

 

これは尺云々とは関係ない*6ことだが、メインプロットである亜空間航路開拓に関する事柄と茉莉花たち宇宙海賊があまり上手く絡んでいなかったように思う。作品世界において銀河文明を根底で支えているのが超光速航行技術だ。その航行ルートを人為的に塞いで自社グループに利益誘導しようというメガコングロマリットユグドラシルグループの陰謀や、政治・軍事・経済のバランスを根本から変えてしまいかねない新規亜空間航路の開拓が、弁天丸クルー(と白鳳女学院ヨット部)の手に負えるような事件には思えなかった。本来なら、銀河全体を巻き込んだ巨大な事件のハズである。良くも悪くも、このシリーズはある特殊な条件下*7で「宇宙海賊」を成立させているので、その弊害が出てしまった形だろう。”合法”の海賊として法の制約から逃れている反面、法に縛られない自由さからはやや遠いところにいる。

 

能登さん(演じるキャラ*8)必要だったの?問題。劇中に匂わせる描写は多々あったものの、アレならいなくてもよかったのでは…?無限彼方とは別方向から博士を追うキャラクターという対比は理解できないわけじゃないけど、思わせぶりな雰囲気だけ振り撒いているキャラに見えてしまったなぁ。もしかしたら、クライマックスの対決的場面を演出する為だけに出されたキャラなのかもしれない。それならば、彼女を削って、無限彼方の描写を増やしても良かったのではないかと思う。

 

他にもコマゴマとあるけど、まぁ言っても仕方ないか。チアキの謎な扱いとか、シュニッツァーの活躍とはなんだったのか、とかね…無限博士が残した亜空間潜航艇のデザイン*9については触れない方がいいの? 

 

結論的な何か

 

色々書いたけど、別に悪い映画ではない。基本的に一見さんお断りのファンムービーだという前提だが、一応の配慮もなされていた。良かった点を挙げようと思えば、幾つもあるのだ。劇場版らしいリッチな画面*10はやっぱり良かったし、観ていて楽しかった。前述した通り、キャラクターデザインから弁天丸のブリッジまで、TV版に比して大幅にグレードアップしている。挿入歌の使い方だって悪くはなかった。何より、大スクリーンで観る宇宙船は迫力があって良い。オデットⅡ世が出てきた時はアガったなぁ。 一瞬だったけどさ…

 

 

 

*1:上映時間95分

*2:そして原作者:笹本祐一らしいとも言えるか

*3:わからないわけでは決してないのだが、如何せん実際の時間が殆ど経っていないのに心情がコロコロ変わっていくので、観ている側としてはチョロイなコイツと思ってしまう

*4:「黄金の幽霊船」編で本来はもっとやりたかったことのようだ

*5:特殊な星の下に生まれたこと

*6:厳密には関係あるかもしれない。これがテレビシリーズであれば、5〜6話かけてもっとじっくり描かれただろう

*7:植民惑星自治政府の戦力不足を補う為に限定的な形で認められた海賊免許が、終戦の有耶無耶によって持続している

*8:金髪サングラス紅服

*9:CGェ…

*10:最近はこの段階でハズレの映画が多くて困る